「Happy Birthday 12/24」     ///越前リョーマ<連載主人公番外編>


。24日、俺の誕生日なんだけど、知ってるよね?」
 俺は怒ってた。
「まさか予定なんか入れてないよね? その日は一日、俺に付き合ってもらうから」
 そう言った俺を、目の前の俺の恋人は、明らかに戸惑った顔で見下ろしている。
 昼休み、堀尾たちが俺に隠れてコソコソと話しているのを聞いてしまった。24日に、テニス部でクリスマス会なんてものをやるって。
 もちろん俺はそんなのに出る気はないよ。クリスマスなんて関係ない。誕生日は、自分の恋人と過ごしたいんだから。
「テニス部のメンバーと一緒にクリスマスを兼ねて、なんて俺イヤだからね」
 行かないと言った俺に、堀尾が慌てて説明してきた。部員だけじゃなくて竜崎とかも参加する予定になってるって。
 そして――この俺の恋人も。
「だって、その、手塚がドイツに留学したら、そう簡単に会えなくなってしまうし……」
 ねぇ、誠吾。俺がアンタの口からその名前を聞かされるのがいちばん嫌だって、解ってる?
「断ってよね。当日は俺が予定を決めるから」
 どうせが断れないのを見越して、先輩たちが強引に決めたんだろう。先輩たちと仲がいいのは知ってるけど、それだってホントは面白くない。
「そんな――リョ、リョーマはいつも先に決めすぎるよ!」
 返ってきた言葉に、俺は驚きを隠せなかった。
 俺がちょっと強く言えば、は先輩たちより俺を優先してくれるって、そう思ってたのに。こんなにもはっきり否定するなんて。
「へぇ……いつも∞勝手に∞俺ばっかり′めてて悪かったね」
「違う、そうじゃなくて――」
「じゃあなに? いいよ、好きにすれば。俺もそうさせてもらう」
 悔しかった。たまらなく。
「リョーマ、待って!」
 伸ばされた手を振り切って、俺は走り出した。振り返らずに。
『リョーマはいつも先に決めすぎるよ!』
 そんなふうに思われていたなんて。
 確かに、過去の思いに囚われていた誠吾の、その瞳を俺に向けさせるために、少し強引なことはしてきたと思う。
(まさかは、いままで仕方なく俺に合わせてた、なんてこと――)
「越前!」
 突然聞こえてきた鋭い声に、俺は顔を上げる。
 そこにいたのは、いつも食えない笑みを浮かべている先輩。
「不二先輩……なんスか?」
「悪いけど、見てしまったんだ。きみがともめているのを」
「だから? 俺、テニス部のクリスマス会なんて行きませんよ」
「きみに隠していたのは悪かったと思ってる。でも、はっきりと言うよ。ぼくたちがなんて言ってを誘ったと思う?」
 機嫌が悪いのを隠さずに顔を背けたままでいた俺に、信じられない言葉が聞こえた。
「キミを、越前への誕生日プレゼントにしたいんだ=v
「え…?」
「クリスマス会は五時までだけど、一晩中あることにしてふたりだけで一緒に過ごせばいいって話したら、も承諾してくれたんだよ」
 残念だよ。せっかく手塚まで説得したのに、と不二先輩が呟く。
「俺――…、失礼します!」
 俺は駆けだしていた。教室、図書室、昇降口――走り回ったけど、の姿は見つけられない。
 それどころか、行く先々で、出会った先輩たちに怒られた。どうやら俺にバレたと解った堀尾が焦って桃先輩に話して、桃先輩が菊丸先輩と不二先輩に、菊丸先輩が大石先輩へと、どんどん話が広がっていたらしい。
 もう一度、3年1組の教室に戻ってみたとき、不機嫌そうに――いや、機嫌がいいのなんて一度だって見たことないけど――部長(元)に、「屋上は行ってみたのか」と言われた。
 俺だって最初に思いついた場所だったけど、この寒いなか、まさかいるはずがないと思っていたのに。
「みつ、けた……っ!」
 勢いよく押し開けた屋上の扉の向こう、ずっと探していたの姿を見つけて俺は思わず叫んでいた。
 まっすぐ彼に向かって駆け寄り、その細い身体をしっかりとこの腕に抱きしめる。
「ゴメン、! ホントにゴメン! 先輩たちに、全部聞いた! ゴメン! ホントに、俺――」
 だから、お願いだから――俺のこと嫌いにならないで。
「待って、リョーマ。ぼくも悪かったんだ。だから、ちゃんと話そう。部活終わるの、図書室で待ってるから……迎えに来て」
 優しい声に顔を上げると、その声に相応しい優しい笑顔が、俺を見下ろしていた。
 再び間近で見れたその笑顔に、俺はほっとする。
「ん、解った」
 頷いて、ゆっくりへと手を伸ばした。指先に触れたその頬は、やっぱりひどく冷たくて。
「――こんなに冷たくさせて、ゴメン」
 焦って空回りして、でも――アンタのこと好きなのは、誰にも負けないから、それだけは解って欲しい。
 そう願った俺の前で、が静かに目を閉じる。
「じゃあ、リョーマの熱を分けて……」
 ……ちょっと、それ反則だよ。
 いいよ、俺の熱、全部受け取ってもらうから、覚悟して。
 ゆっくりと、俺は彼を引き寄せて唇を重ねた。
 冷たかった唇はすぐに温かくなったけど――まだまだ、俺は離す気はないよ。いいよね?

































「Happy Birthday 12/24」 side YOU ///越前リョーマ<連載主人公番外編>


。24日、俺の誕生日なんだけど、知ってるよね?」
 そうリョーマに言われたのは、クリスマスの二週間前のこと。
「まさか予定なんか入れてないよね? 一日俺に付き合ってもらうから」
「え……」
 驚いたぼくに、挑むような大きな瞳が告げる。
「テニス部のメンバーと一緒にクリスマスを兼ねて、なんて俺イヤだからね」
 図星を指されて、ぼくは口ごもる。
 みんなでこっそり立てていた計画が、どうしてリョーマに知られてしまったのか。
「だって、その、手塚がドイツに留学したら、そう簡単に会えなくなってしまうし……」
「断ってよね。当日は俺が予定を決めるから」
「そんな――リョ、リョーマはいつも先に決めすぎるよ!」
 思わず、ぼくは叫んでしまった。
 リョーマが、大きな瞳をさらに大きくしてぼくを見返している。しまったと思っても、もう遅い。
「へぇ……いつも∞勝手に∞俺ばっかり′めてて悪かったね」
「違う、そうじゃなくて――」
「じゃあなに? いいよ、好きにすれば。俺もそうさせてもらう」
 プイッと顔を背けて、リョーマが行ってしまう。
「リョーマ、待って!」
 慌てて追いかけてその腕を掴んだけれど、リョーマはぼくの手を振り払って駆けだしてしまった。ぼくのほうを、振り返ることなく。
 どうしてこうなってしまったんだろう……
 授業が終わった放課後の廊下。下校する生徒たちの波を避けて、ぼくは独り屋上へ向かった。
 重い扉を押し開けて出た屋上はさすがに寒くて、コートを着ていないぼくは身体を震わせる。でも、戻る気にはなれなかった。こうでもしないと、みっともなく泣き出してしまいそうだったから。
『越前の誕生祝いも兼ねて、テニス部のメンバーを中心にクリスマス会の企画を立ててるんだけど、も来てもらえないかな?』
 手塚と連れ立ってきた不二にそう提案されたのは、十二月なったばかりのときだった。
 他にも竜崎先生のお孫さんとかテニス部以外の子たちも誘うから、ぼくが来ても全然構わないんだと不二が笑顔で誘ってくれた。
 けれど、その隣に立つ手塚の顔が不機嫌そうで。
『実はね、誠吾に来てもらえないと、困るんだ。クリスマス会の予定は五時まででね、その後はそれぞれ自由ってことになってるんだけど――まぁ、つまり。テニス部から越前への誕生日プレゼントは、キミとの時間ってこと』
 ぼくがよく解らずにいるのに気づいたのか、不二がさらに具体的に、その意味を口にした。
『だからね、ぼくたちと一緒にいるのを口実にしてくれて構わないから、ふたりで好きに過ごすといいよ。手塚の家に泊まるってことにしてもいいって』
『……羽目を外したりしなければ、だがな』
 お前のことは信じてはいるがと小声で付け足して、手塚が眼鏡のブリッジを押し上げる。
 みんなの気持ちが嬉しくて、ぼくはそうさせてもらうことにした。
 でも手塚に嘘をつかせるのは嫌だから、リョーマが嫌だと言わなければ、ウチに泊まってもらえるようにと、両親にも話していたのに。
(どうしたらいいんだろう……)
 リョーマのために考えていたとはいえ、あんな言い方をしてリョーマを怒らせてしまったのは事実。
 確かにリョーマは強引なところもあるけれど、それが嫌なのではなくて、ちゃんとぼくの話も聞いて欲しかった――それだけなのに。
(なんでうまく伝えられないんだろう……)
 嫌われたくないと思うと、言葉がうまく出てこなくなる。こんな自分が、嫌いだ。
 フェンスの向こう、テニスコートでは一年生たちが部活の準備を始めている。そこに、リョーマの姿を見つけることができなかった。
 目頭が熱くなって、その景色がどんどん滲んでしまう。
(こんなふうに、遠くからしか見ていられないのは嫌だ――)
 ぼくは袖口で乱暴に目を擦ると、リョーマを探すために歩き始めた。
 そのとき、勢いよく屋上の扉が開く。
「みつ、けた……っ!」
 現れたのは、息を切らしたリョーマで。
、ゴメン! ホントにゴメン!」
 一直線にぼくに向かって走ってきたリョーマが、ぼくの身体を強く抱きしめる。
「先輩たちに、全部聞いた! ゴメン! ホントに俺――」
 熱い身体と、強い腕。でも、その手が震えているのが伝わってくる。
「待って、リョーマ。ぼくも悪かったんだ。だから、ちゃんと話そう。部活終わるの、図書室で待ってるから……迎えに来て」
 ぼくが言うと、リョーマはぼくの身体から腕を放して、顔を上げた。
「ん、解った」
 その手が、ゆっくりとぼくの頬に触れてくる。
「――こんなに冷たくさせて、ゴメン」
 屋上にいたのは、そんなに長い時間じゃない。
 ぼくが冷たいんじゃなくて、リョーマが熱いんだ。ぼくを――一生懸命探し回ってくれたから。
「じゃあ、リョーマの熱を分けて……」
 ぼくはそう言って、静かに目を閉じた。

































「Happy Birthday 12/5」 side YOU  ///日吉若 <連載主人公番外編>


 目の前で振られた手に気づいて顔を上げると、そこにあった乾の顔がクラリと揺らぐ。
 伸びてきた腕に支えられ、倒れずにはすんだけれど。
「やっぱり。これは38.4℃といったところか……。風邪だな。、今日はもう早退したほうがいいぞ」
 額に触れてきた乾の手が気持ちよくて思わず目を閉じていたけれど、その言葉を聞いてぼくは慌てて顔を上げた。
「帰れないよ、だって、きょうは――」
 きょうは12月4日。明日の若の誕生日のために、帰りにケーキの材料を買って、夜までに作って、一緒に食べようって約束してる…、んだ、から…………
……お前の都合もあるだろうが、もういい加減、座っているのもきついんだろう? とりあえず保健室へ行こう。嫌だというなら、抱きかかえてでも連れて行くよ」
 そう言った乾に逆らえず、ぼくは支えてもらいながら保健室へ行った。保健室のベッドで横にならせてもらうと、いままでこらえていたものがどっと押しよせてきたようで、身体を起こすのすら億劫になってしまった。そして結局、母さんが迎えにきて、タクシーで医者に連れて行かれる羽目になった。
「薬飲んで大人しく寝ていなさいね、
「はーい……」
 水の入ったコップと処方してもらったばかりの薬の袋を置いて、母さんがぼくの部屋から出て行く。パジャマに着替えてベッドに入り込むと、ぼくは薬を飲む前に携帯電話を取り出してメールを打った。
『ゴメン。風邪をひいてしまって、早退した。きょう、会えない。ゴメン、本当にゴメン』
 頭がぼうっとして、うまく言葉も出てこない。
 若のためだけに黒ゴマのシフォンケーキを作るって決めてたのに。甘すぎない生クリームを添えて、飲み物はほうじ茶にするつもりだったのに。日付が変わる瞬間、ふたりで一緒にいようって若から言われて、すごく嬉しかったのに――目頭が熱くなって、ポロポロと涙が零れた。
 いまはまだ午後二時。若がメールを見るのは授業が終わったころだろうか。それとも、部活が終わったころだろうか。
(若、ゴメン……)
 泣きながら、ぼくは目を閉じた。
 ぼくが再び目を開けたとき、周囲は真っ暗だった。
 なにか影が動いたような気がして、あたりを見回す。
「シッ――」
 突然すぐ近くに現れた人の気配。
、悪い。おばさんに黙って上がり込んだ」
 声を落として話しかけてくるその声と、優しく額に触れてくる手のひらが誰のものか、ぼくが間違えるはずはない。
「熱は下がったようだな」
「わか、し……ゴメン、ゴメン……」
 それしか、ぼくは言うことができなくて。
「いいから」
 ぼくの声を低く制したわかしの手が、ぼくの頭を撫でる。
「ケーキは、また今度でいい。気にするな」
 優しい言葉が嬉しくて、ぼくの目から再び涙が溢れた。
、また次がある」
 そう言って、若の指がぼくの目元を拭う。少し堅い、若の指先が心地いい。
「うん……」
 少し遅れてしまうけれど、早く治して、ふたりきりで若の誕生祝いをするから。
 ようやく暗闇に目が慣れてきて、ぼくはすぐ近くにいる若の顔を見ることができた。けれどその顔が、何かを見つけたようにフッと横を向く。
 どうしたのかとぼくが聞こうとしたときだった。
「……いま。俺の誕生日になった。先に、コレをもらっておく」
 もう一度、目の前が暗闇に覆われて――そしてぼくが唇に受けた優しい感触は、少しだけ冷たくて気持ちよかった。

































「Happy Birthday 12/5」     ///日吉若 <連載主人公番外編>


 放課後。部室で着替えようとラケットバックを開けたとき、日吉は自分の携帯電話に届いていたそのメールに気づいた。
「チッ」
 取り出してその内容を確認して、思わず舌打ちする。
「どうしたんだよ、日吉。なにかあったのか?」
 すかさず覗き込んできた鳳に、なんでもないと告げて、返信することなく鞄にしまった。
 やがて練習が終わると、すぐに日吉は帰り支度を始める。
「いいよ、鍵は俺が閉めとく」
 なんでも解っているという鳳の顔が気に入らない。けれど一刻も早く帰りたいのも事実。
「悪いが任せる」
 そう言い残して、日吉は駆け足で家へ急いだ。
 いつもよりだいぶ早く家に着くことができたが、日吉は家に入ることなく、生け垣にある穴を越えて、隣の家へ向かう。
 その家の二階のとある窓を、じっと見上げる。けれど室内で誰かが動いている気配はない。
 日吉は鞄から携帯を取り出して、届いていたからのメールをもう一度開いた。
『ゴメン。風邪をひいてしまって、早退した。きょう、会えない。ゴメン、本当にゴメン』
 何度も謝罪を繰り返すそのメールに軽くため息をついて、日吉は再び窓を見上げた。
「……若くん? なにしてるの、そんなところで」
 振り返った先にいたのは、氷帝学園高等部の制服に身を包んだ、の姉。
とケンカでもしたの?」
 軽く睨みつけられるような視線に、日吉は首を振る。
から、風邪を引いて早退したってメールが来てたんで」
「あら、そうだったの。上がって、様子を見ていく?」
「いいえ。が眠っているなら、起こしたくないんで。ただ――」
 日吉は携帯を握りしめて、その言葉を口にした。
「その……、泣いてるんじゃないかと」
 何度も何度も謝っているメール。どんな気持ちではこれを打ったのか。
「どうして――ああ、そうだったわね。明日は若くんの誕生日ですものね」
 姉だけあって、彼女は正確に日吉の考えと、そして彼が考えるであろうことを把握してくれた。
「コレ、使っていいわよ。今晩限定のわたしからのプレゼント」
 彼女は鞄からキーホルダーのついた鍵を取り出すと、日吉に差し出した。
 使い終わったら離れのピアノの上に置いておいてねと笑いながら付け足して、彼女は家のなかへ入っていった。
 もちろん、それがなにを意図しているのか、解らないはずはない。
 日付が変わる十分前、日吉はその鍵をつかって家に上がり込み、が眠っている部屋へと入り込んだ。
「シッ――」
 日吉の気配に気づいたのか、目を覚ましたらしいに、静かに声をかける。
、悪い。おばさんに黙って上がり込んだ」
 まだよく解っていないらしく、ぼんやりとしているの額に、日吉はそっと手を伸ばした。
「熱は下がったようだな」
「わか、し……ゴメン、ゴメン……」
 思い出したように、彼の口から零れる謝罪。
「いいから。ケーキは、また今度でいい。気にするな」
 日付の変わる時間に一緒にいないかと誘った日吉に、若のためだけにケーキを作ると嬉しそうに返してきたが若のために作るケーキもだが、この夜をふたりだけで過ごすことを、楽しみにしていなかったといったら嘘になる。
 でも、だからこそ、彼に自分を責めてほしくはない。
、また次がある」
 まだ自分たちにはいくらでも、次の機会があるはずなのだから。
 日吉はそっと指を伸ばして、の瞳から溢れる涙を拭った。
「うん……」
 薄闇のなか、ようやくが笑顔を見せてくれて、日吉はほっとした。
 そのままの笑顔に引き込まれそうになってしまい、ふと棚を見る。そこに置かれていた時計が、日付が変わったことを告げていた。
 だとしたら、こんな言い訳も通用するはずだ。
「……いま。俺の誕生日になった。先に、コレをもらっておく」
 触れた唇は柔らかく温かく、ゆっくりと日吉はその熱を奪った。




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all re-updated 08/3/30